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第五章:夏の終わり

Author: 佐薙真琴
last update Last Updated: 2025-12-01 06:17:41

一、残された日々

 真実を知ってから、健太と遼の時間はより濃密なものになった。

 二人は村中を駆け回った。まだ行ったことのない場所、まだ見たことのない風景、まだ経験したことのないすべてを求めて。

 山の奥深くに分け入って、誰も知らない渓谷を見つけた。滝の裏側に回り込んで、水のカーテンの向こう側から世界を見た。夜明け前に起きて、朝日が山の端から昇る瞬間を見た。

 すべてが特別だった。最後になるかもしれないから。

 ある日、遼が言った。

「健太、俺の話聞いてくれる?」

 二人は例の丘に座っていた。

「俺ね、死んだときのこと覚えてるんだ」

 健太は黙って聞いていた。

「川に落ちて、流されて。必死で岸に上がろうとしたけど無理だった。体が冷たくなっていくのがわかった」

 遼の声は静かだった。

「でも不思議と怖くなかった。ああ、これで終わりなんだなって。ただ一つだけ後悔があった」

「何?」

「夏が終わっちゃうなって。まだやりたいことがいっぱいあったのに。まだ見たい景色があったのに。まだ誰かと笑いたかったのに」

 遼は空を見上げた。

「その思いが残ってたんだと思う。だから俺、消えられなかったんだ。四十年以上もこの村をさまよってた」

「寂しくなかった?」

「最初はすごく寂しかった。でも時間の感覚がなくなっていって。ただ夏の記憶の中を漂ってるような感じだった」

 遼は健太を見た。

「でも健太が来てくれて、俺はまた形を持てた。また誰かと話せた。また笑えた。これ以上の幸せはないよ」

「俺も」

 健太は涙をこらえながら言った。

「俺も遼に会えて本当によかった」

 二人は抱き合った。遼の体は冷たかったが確かにそこにあった。

「ありがとう

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